ウサギとカイ

とんかつ

ある一定の年齢を超えるとどうしても「油もの」がキツくなる。一部の読者の皆さんにはご理解いただける話ではないだろうか。3度目の成人式を迎えた筆者も例外なく、(妻からの牽制≒健康への気遣いもあり)いつの頃からか揚げ物と縁遠い生活を送るようになっていた。そんな私が、まさか月に2回も通ってしまうとんかつ屋さんの常連になろうとは。

その日は突然やって来た。

連日仕事が立て込んでいたので、気分転換を兼ねていつもと違う経路の帰宅途中。そのお店の前を通ると路地裏にはなんとも形容しがたいごま油の香ばしい匂いが立ち込めていた。
味のある佇まいとダクトから漏れるそのおいしい匂いに誘われ、「油もの」への背徳感と葛藤しながらも恐る恐る足を踏み入れてみた。カウンターの向こうには寡黙だが、しっかりと修行した感じの実直な板前さん。手渡されたメニューと同時にスマホを片手にお店の情報を調べてみる。ネットによれば「元々は静岡に本店を構え、満を持して東京に出店した老舗のとんかつ屋」とある。お店の料理哲学は「揚げ物の本質は『蒸し料理』。薄い衣で素材の旨味を閉じ込める」というもの。

「(揚げ物なのに)蒸し料理???」「揚げ物は揚げ物でしょう。」「蒸したらサクサク感がなくなっちゃうよなぁ…」とメニューを見ながらひとりごつ。いろいろと考えて、注文したのはヒレカツと車エビのフライ。ロースでないのは、少しでもヘルシーにというささやかな抵抗。

運ばれてきたヒレカツをまずは何もつけずに口に運ぶ。口の中に入れたその瞬間、衣がスーッと舌の上で溶ける、油はまとわりつかず、とても揚げ物を食べている感覚ではない。肉にはしっかりとした旨味があり、ジューシーで柔らかい。車エビもあのプリっとした歯ごたえが何とも言えない。常識を覆す逸品。まさに芸術品である。

「やはり日本食は最高!」と心の中で沸き上がる感動。

「あれっ?」この時、ふとある違和感が頭をよぎった。
「とんかつは、日本食なのか?」「日本食と和食の違いは何だっけ?」

「とんかつ」は、元々フランス料理のコートレット(英:カットレット)に由来する外来食。このお店の材料の豚肉は国産だそうだが、日本のブランド豚も元をたどれば海外で交配された豚の品種改良のおかげ。ごま油の「ごま」の起源は中国。そもそもその飼料は国産?衣のパン粉の原料である小麦粉はどこ産?

「とんかつ」に限らず「ラーメン」も既に「日本食」として世界的に市民権を得つつあるが、私たち現代日本人の日常に定着している料理の多くは、まさしく和食(日本古来の伝統的な懐石料理や郷土料理等)と世界の料理が融合した文化交流と貿易の歴史の集大成と言える。

JETROが中心となって設立された「新輸出大国コンソーシアム」に携わる身として、日常の出来事と貿易を強引にくっつけて考えてしまうのは、どうやら職業病のようだ。

世界は今、アメリカのTPP離脱やイギリスのブレグジットに象徴される自国優先の保護主義政策の一方で、国連で採択されたSDGsのように地球規模での平和と発展を目標に掲げ、自由貿易も推し進めるという極端な激流の中にある。保護貿易と自由貿易。その背景には、それぞれの国の事情があり、歴史は繰り返し、一概にどちらが正解と言うことはできない。

さて、話を難しくしてしまったが、活発な文化交流と貿易が進めば、いろんな食材やレシピが融合し、「とんかつ」や「ラーメン」のようなすばらしい日本食、さらにおいしい日本食が生まれるかもしれない。そういえば、貿易という熟語にしか使用されない「貿」の字は、「卯」と「貝」という二つの漢字から成り立っているとずいぶん昔に聞いたことがある。肉を二つに分けた象形文字の「卯」とお金を意味する「貝」から成り立っていると。(※諸説あり)

近いうちにこの隠れ家に家族も連れてきて、肉を分けながら食べ過ぎの罪悪感と貿易思考から解放されて真正面から「とんかつ」のうまさを堪能したいと思う。

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